今、振り返る
「明日香」誕生の秘話
おかげさまで、「明日香 2019」で、「明日香」は、ファーストヴィンテージから数えること、記念すべき10番目のヴィンテージを迎えました。
「明日香」は、ご存知の通り、カベルネ・フランを主体に、若干他品種をブレンドした赤ワインで、ファーストヴィンテージをリリースして以来、見事な受賞歴を経て、カベルネ・フランの実力を世界に知らしめていくこととなったのです。
しかし、「明日香」の商品開発には紆余曲折があり、ワイナリーオーナーである辻本憲三&夏子夫妻にも様々な葛藤があったのです。そこで、記念すべき10番目のヴィンテージを迎えた今だからこそ、これまで語られてこなかった「明日香」の誕生秘話について、ご紹介します。
「明日香」の
ファーストヴィンテージは、
2009年
ケンゾー エステイトが100%自社製造のエステイトボトルとして認可された年での収穫です。実はこの年、ケンゾー エステイトでは、カベルネ・フランが大豊作となりました。豊かな実りは喜ばしいことではありますが、「紫鈴」など赤ワインのブレンドを施した後、カベルネ・フランが大量に残ってしまうという結果を招いたのです。
当時のワインメーカーであったハイディ・バレットは、残ってしまうカベルネ・フランをバレルごと他のワイナリーに売ることを、ワイナリーオーナーである辻本憲三&夏子夫妻に提案しました。彼女の提案は理に適っているものでしたが、辻本夫妻は、エステイトボトルとして認可されたケンゾー エステイトで育まれた葡萄を、外部へ販売することに、どうしても抵抗を感じていました。
だからと言って、残されてしまうカベルネ・フランをどうしたらいいのか、具体的な策を見出せるわけもなく、途方にくれていたことも確かでした。しかし、ある時、辻本憲三は、気づいたのです。物事を複雑に考えすぎていたことに。彼は、生産者として、シンプルな考え方に立ち戻ったのです。「カベルネ・フランがあるなら、カベルネ・フランでワインをつくろう」と。
カベルネ・フラン主体の
ワインづくりへの挑戦
しかし、当時のナパでは、カベルネ・フランでつくられたワインなど、見かけることなど、まずありませんでした。なぜなら、カベルネ・フランは、そもそも補助品種として栽培され、一般的にカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロとブレンドされることが多く、カベルネ・フランを主体にワインづくりをするというケースはあまりなかったからです。それでも、無駄になってしまうことも覚悟の上で、辻本夫妻は、カベルネ・フランを主体としたワインをつくることを決断したのです。
辻本夫妻の判断に、ワインメーカーらが戸惑ったのは否めません。しかし、ケンゾー エステイトで収穫されたカベルネ・フランは、ボルドー産のものに比べ、香りの華やかさや果実味の強さで際立っており、そこに目を付けた辻本夫妻は、このカベルネ・フランに、新たな商品化への可能性を感じ取り、ワインメーカーたちを説得していったのです。
「明日香」のブレンドスタイルの
ベース確立
そして、辻本夫妻の情熱が、結実するときが訪れます。2011年9月、当時からハイディとともにワインメーキングに携わっていたマーク・ネインズによって、2つのプロトタイプが提案されました。ひとつは、カベルネ・フランを主体としながらも、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルロを若干ブレンドしたもの。もうひとつは、100%カベルネ・フランというものでした。そもそも、ワインメーカーとは、ブレンダーとしての役目を果たすものです。そんな彼らが、あえてブレンドしないものを提案するということは、それだけ、そのカベルネ・フランが素晴らしい出来だったということの証にもなったわけです。
ブレンドとストレート、どちらも優劣をつけられないほど素晴らしいワインに仕上がっていました。しかし、度重なる協議の上、結果的には、ブレンドタイプが選択され、テストマーケティングのために、若干量が限定生産され、2012年にリリースされると、あっという間に完売を迎える大ヒットとなったのです。これによって、その後の「明日香」のブレンドスタイルのベースが確立されることになりました。
その後、「明日香」は、現在のヴィンテージに至るまで、90点台の高評価を何度となく受け続け、昨年は、全米のワイン専門誌「The Wine Enthusiast」でも、“洗練さとエレガンスを備えた名品”として表彰されています。
これまでの主な受賞歴カベルネ・フラン100%の
「明日香 2015」
しかし、残されたカベルネ・フラン100%のボトルも、非売品とはなったものの、直営店などでお客様に振舞われ、大きな反響を呼んだため、再度、2013ヴィンテージでもカベルネ・フラン100%がプロトタイプとしてわずかに製造されました。
しかし、これまでの「明日香」の歴史の中で、ただ一度だけ、カベルネ・フラン100%という選択によって商品化されたことがあります。それが、2015ヴィンテージ。この年のカベルネ・フランは、本当に秀逸な出来だったため、このような選択がなされました。そして、このヴィンテージで「明日香」は、全米で最も素晴らしいワイン100本の内の1本に選ばれる栄誉に輝いたのです。
これまでの主な受賞歴10番目のヴィンテージ
「明日香 2019」
そんな誕生秘話を持つ「明日香」ですが、おかげさまで、現在提供している「明日香 2019」が、ファーストヴィンテージから数えること10番目のヴィンテージとなります。しかし、「明日香」のファーストヴィンテージは、2009年でした。つまり普通に考えると、2019ヴィンテージは、11番目のヴィンテージのはずです。しかし、「明日香 2019」は、まぎれもなく10番目のヴィンテージなのです。
ファースト・ヴィンテージの「明日香 2009」は、前述した通り、2011年にプロトタイプが完成し、商品化が決まるわけですが、この時点で、次の「明日香」を作れるのは、2011年に収穫した葡萄になってしまうわけですから、「明日香」は、ファーストヴィンテージをリリースしたその翌年に、続けてリリースすることはできませんでしたので、「明日香」に2010ヴィンテージは存在しません。従って、現在の「明日香 2019」が、記念すべき10番目のヴィンテージとなるのです。
■これまでの主な受賞歴
「明日香 2013」 | 95点を獲得(James Suckling) |
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「明日香 2014」 | 97点を獲得(California Wine Advisors) |
「明日香 2015」 | 96点を獲得(James Suckling) 全米Top100ワインの1本に選出(James Suckling) |
「明日香 2016」 | 95点を獲得(James Suckling) 95点を獲得。カベルネ・フランでは最高評価点(The Wine Enthusiast) |
「明日香 2018」 | 洗練さとエレガンスを備えた名品として、エディターズ チョイスに選出(The Wine Enthusiast) |
「明日香 2019」 | 複数メディアで、94点獲得(Wine Advocate、James Suckling) |