パリスの審判50周年記念企画 カリフォルニアワインの魅力パリスの審判50周年記念企画 カリフォルニアワインの魅力

ワイン史を変えた
パリスの審判から50年。
カリフォルニアワインの軌跡を
アンバサダー山本 麻衣花ソムリエールが解説

1976年、ワイン界に衝撃をもたらした歴史的テイスティング、パリスの審判から今年で50年。この特別な節目を記念して、カリフォルニアワイン・ソムリエアンバサダー兼NAPA VALLEY WINE BEST SOMMELIER AMBASSADORとしてご活躍中の山本 麻衣花ソムリエールによる特別寄稿をお届けします。ワインへの深い造詣を持つ山本さんの視点から、カリフォルニアワインとケンゾー エステイトの魅力を紐解いていただきました。

カリフォルニアワインの知名度を一気に上げた、パリスの審判とは

1976年5月24日にフランス・パリで行われたパリスの審判は、当時無名であったカリフォルニアワインがフランスワインを抑え、赤ワイン、白ワインともに1位になった歴史的な出来事として知られています。

元々はアメリカの建国200周年を記念し、フランスでワインスクールを経営していたスティーブン・スパリア氏がカリフォルニアワインの認知向上のために企画したイベントでした。ところが、誰もがフランスワインが勝つと思っていたこの品評会において1位になったのは、マイク・ガーギッチ氏が手がけた「1973 Château Montelena」のシャルドネとウォーレン・ウィニアスキ氏が手がけた「1973 Stag’s Leap Wine Cellars, S.L.V.」のカベルネ・ソーヴィニヨンだったのです。

フランスでも有名なワイン評論家が、カリフォルニアワインとフランスワインをブラインドでテイスティングし順位をつけるというこの品評会は、ワインといえばフランスワインで、ましてやニューワールドと呼ばれる国のワインは見向きもされなかった当時のワイン市場に、革命を与える出来事となりました。その様子はニューヨーク・タイムズ誌や2008年に公開された映画ボトル・ショックでも取り上げられ、カリフォルニアワインの知名度を一気に上げる契機となったのです。

その後1981年にはナパ・ヴァレーがAVA(米国政府認定ブドウ栽培地域)に認定され、1990年代にはコルギン・セラーズやスクリーミング・イーグルのようなカルトワインと呼ばれるようなワインも台頭し、カリフォルニアワインは成熟期を迎えます。

現在でもパリスの審判は語り継がれており、チリのヴィニェド・チャドウィック氏はパリスの審判をオマージュしたベルリン・テイスティングを開催するなど、ニューワールドのワイン生産者にとっても希望の星のような出来事となりました。ナパ・ヴァレーという産地が世界中に知られるようになった後、ナパ・ヴァレーの多様性が知られるようになりますが、日本の市場では、このパリスの審判が今でもナパ・ヴァレーワインのイメージとして定着しており、50年経った今でも大きな影響を与え続けています。

銘醸地ナパ・ヴァレーが生み出すワインの特徴

ナパ・ヴァレーをひと言で表すと、唯一無二な産地と言えます。ナパ・ヴァレーが持つ多様性が、ナパ・ヴァレーのワイン産地を特別なものにしているからです。

A to Z(アルバリーニョからジンファンデルまで)と言われるような幅広い品種構成があり、世界の2%の地域にしかないワインづくりに適した地中海性気候です。さらには、世界中の土壌の半分以上の種類の土壌目が、ボルドーの1/8程度の広さしかないエリアのナパ・ヴァレーに集約されており、多種多様な地層が形成されています。また、マヤカマス山脈とヴァカ山脈に囲まれたナパ・ヴァレーは、標高の差によっても味わいに異なる表情を見せ、低い標高のエリアにはサン・パブロ湾からもたらされる冷たい霧がかかることで昼夜の寒暖差をもたらし、酸味を保ちながらゆっくりと成熟を促します。フォグ・ライン(冷たい霧の到達点)を超えるような標高の高い産地からは、霧の影響を一切感じない日照量の高さと、標高の高さからくる冷涼さが合わさり、タイトな酸、強靭なタンニンを持つワインが生まれます。

このようにして生まれるナパ・ヴァレーのワインは、まさに多様性の宝庫であり、ひと言でナパ・ヴァレーといっても、それぞれが異なる表情を見せ、世界的に見てもユニークな産地と言えるのです。

また、ナパ・ヴァレーの産地を語るうえで欠かせないことが、人です。それぞれがワインづくりに対する情熱を持ち、プレミアムワイン産地としてのプライド、新しいものを受け入れる柔軟性があるからこそ、ナパ・ヴァレーという産地を唯一無二にしています。フランスワインが高騰するなか、世界中がフランスワインに代わるようなオルタナティブ産地を求める傾向にありますが、ナパ・ヴァレーは、そんなフランスワインに匹敵するプレミアム産地でもあり、決して比べることはできない唯一無二な存在なのです。

ケンゾー エステイトで育まれるワインづくり

ケンゾー エステイトの創設者、辻本 憲三氏が土地を購入したのは設立の20年前に遡る1990年。ちょうど名だたるカルトワインが生まれ始めた頃でした。元々アウトドア事業のために購入した土地でしたが、ナパ・ヴァレーの生産者がこの土地を求めて多くの依頼をもらい、この土地でワインをつくることを決め、ワイナリーが設立されたのが2010年のこと。

実はちょうど土地を購入してワイナリーが生まれたこの20年の間に、ナパ・ヴァレーでは歴史的な、転期となるヴィンテージと言われる年がありました。それは1997年。この年は完璧な年と言われ、気候条件がさらに長い成熟期間(ハングタイム)をもたらし、現在のナパ・ヴァレーのワインに知られるような熟度のしっかり取れたワインがつくられた年でした。驚くことに1997年以前のワインは現在のようなスタイルではなく、もう少し熟度が低く、ハーバルな印象のワインが多かったのです。このワインのスタイルは後10年と続き、ナパ・ヴァレーのワイン自体の味わいが現在のイメージとして確立された頃に、ケンゾー エステイトが設立したと言えます。

畑の開墾や、時代の流れなど、最初は多くの困難を極めたワインづくりでしたが、カリフォルニアワインのカリスマ的存在であるデイビッド・アブリュー氏の的確なアドバイス、ワインの女神と称されるハイディ・バレット氏、そして現在のワインメーカー、ヘレン・ケプリンガー氏がケンゾー エステイトのエレガンスを体現すべくワインづくりを始めます。

他のワイナリーから見て比較的新しいワイナリーですが、ケンゾー エステイトの持つワインの繊細さ、食事との親和性は現地の方々からも評価されており、ナパ・ヴァレーに店を構える「ケンゾー ナパ」という和食のレストランは現在ミシュラン一つ星を獲得、ナパ・ヴァレーのワインと和食の可能性を切り拓いてきた先駆者でもあります。ガストロノミーなワインとして、日本とナパ・ヴァレーを繋ぐ架け橋として絶対的な地位を確立しているワイナリーと言えるでしょう。

人の繋がりに恵まれたケンゾー エステイトは、そのワインの美学をヘレン・ケプリンガー氏とともに受け継ぎ、今もなお素晴らしいワインをつくり続けています。

ケンゾー エステイトの豊かなテロワール

ケンゾー エステイトがあるのは、ナパ・ヴァレーAVAで、そのなかでも東南部に位置しています。隣のソラノ・カウンティと接しており、259m~650m程の高い標高と近接するサン・パブロ湾の影響により、ナパ・ヴァレーの栽培地域のなかで最も気温が低く、最も南に位置する産地であるカーネロスを通過した空気の温度は、ケンゾー エステイトの丘陵地に到達するまでに、さらに5℃下がるとも言われています。その結果、昼夜の寒暖差があり、これが葡萄栽培によい影響をもたらしています。

ケンゾー エステイトは、470万坪(東京都中野区と同じ位)もの広大な敷地を有しており、そのなかに特徴の異なる5つのエリアで葡萄栽培が行われています。ケンゾー エステイトで初期から第5期にかけて開墾された、緩やかな斜面に位置するワイナリー周辺のヴィンヤードは、カベルネ・ソーヴィニヨンをはじめとする赤ワイン用の品種を中心に栽培が行われている場所です。その先には、急勾配の丘を上がっていくシックス・フェイズ(第6期)の畑があり、サン・パブロ湾からの冷たい風もしっかり入る場所に位置しているため、とりわけ昼夜の寒暖差が大きく、酸味を保ちながら熟度が高い葡萄が得られます。

また、元々乗馬施設があった場所を開墾したことからポロフィールドと称される畑では、ソーヴィニヨン・ブランやセミヨンなどの白葡萄品種が植えられています。日照時間が長いウッデン・ヴァレー ヴィンヤードは比較的海抜が低く(とはいっても海抜300mはありますが)、日照量も多いエリアで、マルベックやカベルネ・ソーヴィニヨンなどの葡萄が植えられています。さらに新たな畑として、ジャンピング・フィールドと称されるエリアも開墾され、ソーヴィニヨン・ブランが植えられました。文字通り、敷地のなかでは最も急勾配なエリアで、さながらジャンプ台を思わせるような場所になっています。

トップソムリエールが捉えるケンゾー エステイトの味わいと印象

ケンゾー エステイトのワインの真髄は、奥ゆかしさと端麗さにあると言えます。

どのワインにも一貫しているのが、最適な熟度からつくられる香りの華やかさと、内に込められた繊細さです。華やかな香りからは、香りを取れば取るほどに違った印象を捉えることができ、多層的な印象をもたらします。また、どのワインにも共通するソフトでスムースな口当たり、冷涼な産地からくるピュアな酸味としっかりと成熟した質の高いタンニンが美しい余韻を残し、このニュアンスがどこか日本人が持つ繊細さを表しているように感じます。ケンゾー エステイトのワインには、日本人にしか表すことができないような名が冠されており、その名前からも、ワインの持つ繊細さというのを感じていただけることでしょう。

ガストロノミックなワインは幅広いペアリングが魅力

ケンゾー エステイトのワインは、食事とともにあることでその魅力が一気に広がる、まさにガストロノミックなワインです。それぞれのワインに合う料理は多様にありますが、どのワインもぜひ様々なシチュエーションで、料理とともに愉しんでほしいと思います。

例えば、白ワインの「あさつゆ asatsuyu」には飲茶。私自身が中華料理店に配属された際のペアリングのひとつです。特に広東焼売のような蒸し点心には、ワインの持つ爽やかな酸味とミネラル感が、豚肉や海老の塩味と旨味、余韻に残るほのかな甘味を引き立たせます。日が差し込むお昼時に飲んでいただきたいワインです。

また、ロゼワインの「結 yui」にはブイヤベース。心地よいアセロラやピンクペッパー、オレンジの皮の華やかな香りが、様々な魚介の塩味や地中海ハーブの豊かな香りと見事に調和します。「結」という名前の通り、友人や家族との気兼ねない時間、人と人が結ばれるような瞬間にともにしていただきたいワインです。

赤ワインの「紫鈴」には穴子寿司。煮詰めたブラックベリーやリコリスの香り、ジューシーな果実感が、穴子の甘いタレ、甘酸っぱいしゃりと相性ぴったりです。少し背伸びをするようなカウンターのお寿司屋さんで、バイザグラスで愉しんでいただきたいワインです。

山本 麻衣花ソムリエールからケンゾー エステイトに寄せて

ナパ・ヴァレーとの出会いは、2021年。中華料理店にレストランサーバーとして配属になった時まで遡ります。実は初めてのナパ・ヴァレーは、ケンゾー エステイトのワインでした。土日のランチタイムに飲茶のビュッフェを提供しており、その際ご注文いただいた「あさつゆ」の妖艶なアロマ、美しい酸と心地よいミネラル感に感銘を受け、ナパ・ヴァレーという産地の魅力に一気に虜になってしまったのです。

その後、ナパヴァレー・ヴィントナーズ主催のベストソムリエアンバサダーに挑戦するも、初挑戦では惜しくもファイナリストで終わってしまいましたが、もっとナパ・ヴァレーのワインを知りたいという想いが強くなり、その後の挑戦でNAPA VALLEY WINE BEST SOMMELIER AMBASSADORに。そしてナパ・ヴァレーには留まらず、カリフォルニアワイン協会主催のカリフォルニアワイン・ソムリエアンバサダーとしても活動の機会をいただきました。

私にとってカリフォルニアワインは、人と人、世界を繋げるワインです。カリフォルニアワインを通して出会った人との繋がりや、ワインメーカーのワインへの情熱に触れることで、私自身も自信を持っておすすめすることができ、ワインとお客様を繋げる役割を果たすことができています。ソムリエの意味や価値を実感させてくれるワインなのです。

ケンゾー エステイトでは、ヘレン・ケプリンガー氏が醸造チームに再び戻り、新しい一歩を歩み始めました。ナパ・ヴァレーにおいても、カベルネ・フラン、ソーヴィニヨン・ブランといった品種の台頭や、サスティナブルなワインづくりなど様々なトレンドの変化があるなかで、やはりワインづくりにおいて最も重要だと感じるのが、つくり手の確固たる信念です。ケンゾー エステイトのDNAを誰よりも熟知しているヘレン氏が戻ってきたことで、彼女らしい繊細かつエレガントなワインがケンゾー エステイトのフィロソフィーと融合し、ケンゾー エステイトらしい華やかかつ繊細なワインが生まれることを期待しています。

山本 麻衣花

1997年生まれ。パティシエとしてキャリアをスタートし、その後ワインに魅了され2021年よりホスピタリティー業界の道に進む。2022年、J.S.A.ソムリエ・スカラシップ最優秀賞を受賞。2023年より現職ソムリエチームに参画。現在は現場やワインサロン、ワインイベントなど、様々な活動を通してワインの魅力を伝えている。「ポメリー・ソムリエコンクール 2023」優勝。「第10回 全日本最優秀ソムリエコンクール」セミファイナリスト。現在ではナパヴァレー・ヴィントナーズ「NAPA VALLEY WINE BEST SOMMELIER AMBASSADOR」、カリフォルニアワイン協会 北アジアにおける「カリフォルニアワイン・ソムリエアンバサダー」としても活躍の幅を広げている。

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